浅羽通明 「ナショナリズム──名著でたどる日本思想入門」

 もともと国家論、ナショナリズム論に興味があるので手を出してみた一冊。明治以来の(近代国家としての)日本のナショナリズムの発祥とその変遷をたどった本です。戦後日本ではナショナリズムというととかく粗暴さや対外膨張志向を伴う無謀なまでの積極性と結びつけて語られがちですが、それとは正反対に本書を読み終えて感じたのは一種のいじましさ、健気さとでもいうべきものでした。近代の世界史という荒波の中に放り出された先人たちがアイデンティティの危機の中、必死で自らの置かれた状況を解釈し、自己の位置づけを行ってきたプロセスを追っていくと時には涙を禁じえないものがあります。また、明治の軍人の一代記に始まり、詩歌からマンガ、風景論に至る多様なサンプルを手際よく紹介し、それらがどのような背景をもち、どのような文脈のなかでどう位置づけられるかを解説していく浅羽さんの手際は見事なもので、それを見ていくだけでも読み応えのある一冊といえます。
 この手の本はものがナショナリズム論だけに、手を出すときにはついつい「『ナショナリズム(・A・)イクナイ』、『反ナショナリズム・脱ナショナリズムヽ(´ー`)ノマンセー』と言ってみたいだけの一見格好良いようでいて、実は本質的な議論を回避している本じゃないのか」という不安というか猜疑心が先に立つのですが、浅羽さんはかなり度胸(というかバランス感覚)のある人だったので、その心配はめでたく杞憂に終わりました。まあ、昔読んでいた「ゴーマニズム宣言」の中でよしりんが浅羽さんから「あなたは凡人の気持ちがわかっていない」と指摘されてドキッとした、と描いていたのを覚えているので、もともとそういう度胸というかバランス感覚を持っている人ではないかと思っていたのですが。でなければタイトルを目にして興味を覚えても、買って読むまではいかなかったと思います。