佐藤大輔「皇国の守護者8 楽園の凶器」

 新刊が出るたびに某板の飢餓感に苛まれた信者たちが「まただ、また偽電に違いない」「○○方面、索敵結果ハ如何ナリヤ」などと狂騒的な祭りを繰り広げ、数スレッドを一瞬のうちに消費してしまうある意味恐ろしい作家、「御大」こと佐藤大輔氏の新刊です。
 我々の歴史でいえばナポレオン戦争前後、近代の初めにさしかかり、蒸気船や腕木式通信機、気球/飛行船などが実用化されつつある「大協約」世界での戦争を描いた作品ですが、軍ヲタ・歴史ヲタ・SFヲタ・ファンタジーヲタのツボを突く*1ようなネタをそこかしこにばらまいた上、いつもの諧謔に満ちたキャラクターを縦横無尽に動かし、ひねくれた会話をあちこちで展開させる佐藤節の前に我々信者は陶酔し、ひれ伏すしかありません。しかもこんなヒキの強い場面で終わっているし。どうしてくれるんですか御大。
 御大作品にはいろいろと名言がちりばめられており、Web上には名言録をまとめたサイトもあるくらいですが、本作で気に入ったのは、「衆民どもに(自分たちの階層を代表する英雄として)消費されたくない」という新城直衛の台詞でしょうか。人間の集団が抱く(時には傲慢で身勝手な)願望や期待の怖さ、近代の大衆化社会・メディア社会の入口に入りつつある世界での政治のありかた、といったものの本質を衝いていて興味深かったです。
 あとは本作から平野耕太氏がイラストを描いていますが、ばっちりと佐藤ワールドにはまっています。佐藤節と平野節は似ているなぁ、と以前から思っていたのですが、この二人を本当に組みあわせてしまう編集者のセンスは秀逸。ぐっじょぶ。

*1:最近は別の方面のツボも突くようになっていますが……。