菅浩江「永遠の森 博物館惑星」

 この「博物館惑星」はSFマガジンに連載されていた時にちらっと読んでいたことがあるのですが、単行本が文庫落ちしたので、改めて買って読んでみました。
 菅さんの本は、中高生のころに「メルサスの少年」、「<柊の僧兵>記」、「オルディコスの三使徒」、「氷結の魂」、「不屈の女神」など数冊を読んでいて、わりと好きな作家の一人です。この人の作品からはヒューマニスティックな印象を受けるのですが、これはけなしているのではなく褒め言葉。性善説をひたすらに信じたがるご都合主義的な願望論としてのヒューマニズムでは決してなく、登場人物たちのおかれた単純ならざる状況や精神的な痛み、苦しみ、葛藤や希望を淡々と丁寧に描いていく筆致と、人間や人生に対する冷静さと優しさの同居した視線が彼女の持ち味だと思います。
 本作は「博物館惑星」や「直接接続学芸員」という舞台設定の秀逸さ、物語展開のうまさ、人物描写、各エピソードでのSF的/ミステリ的な「仕掛け」の活かし方など、どれをとっても一級品といってよい作品です。SF読みなら読むべきでしょう*1。「SFはどうも敷居が高くてちょっと……」という人にも、ジャンルの境界にとらわれない上質な物語としてのSFとはこういうものだ、という一例としてお薦めします*2
 ところで、本作を読み終えたら早川書房から出ている初期短編集「雨の檻」をもう一度読みたくなったのですが、新刊では入手不能なようです。早川さんまた出してくれないかなぁ。あと、「メルサスの少年」はやはり新潮文庫版の草磲琢仁さんのイラストで読みたいところではありますが、これも絶版か……。
 それにしても最近の日本SFは読みごたえのある作品が多くて嬉しいかぎり。

*1:「菅節は肌に合わない」という人もいるかもしれませんが……。

*2:他にもそういう作品としては、ジョーン・D・ヴィンジの「琥珀のひとみ」があるけど、これについてはまたいずれ。