小川一水「導きの星」(1〜4)

 うそ師が「SF好き、歴史好きなら読め!」と大絶賛していたので買ってみました。結論から言うと、私もうそ師に同感です。「マルドゥック・スクランブル」も非常に良かったけど、これもかなり良い。湘南急行の車内で読みふけっているといつのまにか藤沢に着いてしまうくらい面白いです。昨年の日本SF界は新人作家の当たり年だったのかな。普段はライトノベル読んでるよ、という人も、SF的な世界観や設定に抵抗がないならぜひこの二作を読むべきです。というわけで私の周辺で思い当たるところのある人は本作も可及的速やかに購入するように(布教モード)。
 で、この作品は終盤のクライマックスこそスペースオペラそのものなんだけど、そこに至るまでのオセアノという地球外惑星を設定し、その居住種族を二足歩行と道具使用の開始段階から始まり、立派な宇宙航行種族にまで育て上げていく過程の物語はディヴィッド・ブリンの「知性化」シリーズや、谷甲州の「航空宇宙軍史」シリーズを彷彿とさせます(いや、これらの作品もスペオペなんだけど、派手な活劇というよりむしろ文明論や歴史よりだと思います。もちろんちゃんとおもしろく読めますが、ブリンは派手に面白くて、谷甲州は地味に面白いです。ってSFファンでないとよくわからんなこんな表現は(w )。
 文明史、技術史といったマクロの物語もしっかりとしていますが、それを支える個々のエピソードでは主人公の一人である人類側の外文明観察官のラブロマンスや、最初に彼と出会った一人の女性に始まりその後もオセアノ史の重要局面に立ち会うことになる──ある意味でオセアノ史を体現することになる──オセアノ居住種族の家系の描写など、個々人の人生にかかわるミクロの物語も丁寧に綴られています。もちろん異種族描写・異世界描写もきっちりとしているのですが、そういう部分でブリンに匹敵する想像力・描写力を持っている作家が他にもいるとは思いませんでした。
 で、似たような設定の物語としては、眉村卓の「引き潮のとき」という話もありますが、これは一応ちらっと読んだけど、個人的には印象が薄いんだよなぁ。おそらく、「引き潮のとき」がSFマガジンに連載されていた当時は中学生で、しかも雑誌連載に細切れに目を通していたせいでしょう(単行本も読んでいない)。まだ内容の面白みがピンとこない年頃だったせいもあるのかもしれませんが、やはりこういう長編は一気に読まないと面白くないという面もあると思います。雑誌連載を切れ切れに読んでいても仕方がない。
 ……とまぁ真面目なレビューはここまでにして。実は外文明観察官を補佐するアンドロイドの一人であるバーニー(『生存』つまり安全保障の担当)が非常にいいキャラをしています。彼女に萌えつつ読んでいなかったといえば嘘になりますが、後書きを読んで吹き出してしまいました。作者にとってもお気に入りだったのかよ!道理で彼女の描写が魅力的になるはずだわ(w