アン・ライス「肉体泥棒の罠」(上・下)

 ヴァンパイア・クロニクルズ第四作。前作とはうって変わって舞台は現代(90年-91年)に限定され、最初から最後までレスタトの一人称で進行します。人間としての身体と感覚に対する執着を捨てられないレスタトが「肉体と魂を切り離し、交換できる」という詐欺師の申し出に抗えない魅力を感じ、短期間だけ人間の身体と自分の身体を交換すべく取引したものの、案の定……。というお話。

 この巻の印象を一言で言うならレスタトの魅力大爆発、というところでしょうか。もちろん、「どうしようもないねぇこの兄ちゃん」と苦笑せざるを得ないようなところも含めての魅力、という意味で。つくづくいい根性をしています、まったく。いやまぁ褒め言葉なんだけど。

 ヴァンパイア・クロニクルズを読んでいると、キリスト教が広まった後の時代で闇の道に踏み込んだヴァンパイアたちの世界観と発想にキリスト教が強い陰を落としている描写が随所に出てきます。人外の身となり、悪の道を歩む「闇の子」たちであってもキリスト教が精神の根幹に染みついた「西欧の子」であることからは逃れられないわけですが、一方でキリスト教が勃興する以前のオリエントやローマ、ガリア出身のヴァンパイアたちの言動にはそういう影響が感じられないあたりに妙なリアリティがあって面白いです。