ジョルジュ・ジャン「文字の歴史」(『知の再発見』双書)

 こちらも創元社の本ですが、SF/ミステリーの東京創元社とは別の出版社です。ややこしいので念のため。ここの「知の再発見」双書というシリーズに年末から新年にかけて出版社がテコ入れしていたらしく、町田や新宿の書店で平積みコーナーができていました。新書より一回り大きいくらいのソフトカバーの本で、カラー印刷で写真や図版が豊富に載っています。ラインナップはこんな感じですが、歴史好きにはそそられるタイトルがずらりと並んでいてなかなか楽しげです。

 で、この本では高校世界史の教科書ではちらっとしか触れられていないメソポタミアの線文字に始まって、アルファベットの成立、中世ヨーロッパでの筆写写本の実際、近代印刷技術の成立と発展(印刷機の改良やフォントの開発)、未解読文字の解読といったテーマについて述べています。西欧世界における文字の歴史に限って読むのであれば安心しておもしろく読めます。

 難点といえば難点なのが漢字(とそれをベースにした東アジア諸言語)に関する言及。西欧人の漢字についての理解が伺えるという点では興味深いのですが、漢字は単なる絵文字ではなくて抽象化された記号体系であるという点を全然理解していない論考が後半の資料編に平気で載っていたりして少々萎えます*1。トホホ。漢字についてはこのへんの記述に期待せず、とりあえず中公文庫で出ている白川静さんの「漢字百話」あたりから読んでいくのがいいでしょう。当たり前といっちゃ当たり前だけど。

 しかし、マクニール先生の「世界史」「戦争の世界史」を読んで以来、歴史書を読むときには内心で自分の世界認識にインパクトを与えるくらいの衝撃を期待するようになってしまっているので、この程度では面白かったけど少々物足りず。次は「声の文化と文字の文化」でもいってみようかな……。

*1:この調子だとアラビア文字に関する記載もどれだけ正確なのか判断しかねるのがさらに残念。