冲方丁「マルドゥック・スクランブル」(1)〜(3)
えー。読了しましたが、すごい本です。SF読みを自認するこのへんの人はみんなぞねででもbk1ででもReal書店ででもいいから、可及的速やかに三冊まとめ買いしてください。
年末、某所にて:
う:「『マルドゥック・スクランブル』というのが日本SF大賞らしいがどうなのよコレ」
ふ:「さー、どうなんでしょうねぇ(気のない返事)」
う:「ふくだ実験汁」
ふ:「まー日本SF大賞だしスカってことはないでしょうねぇ……。(ごそごそ)bk1で発注しますた」年明け、某所にて:
う:「ふくだ〜○毒まだ〜?」
ふ:「う、まだでつ。通学途中に読むつもりで積んでます……(汗)」
とまぁこういう経緯で読むことになったわけですが、まったくもってやる気のなさそうな会話なのには理由があります。私は読んだことのない作家の本に対しては冷たくて、友人や先輩のお勧めでないかぎり積極的に手に取ろうとはしません。さらにお勧めでない限り、そういう人の本を買ってもつねに優先順位リストの後ろの方に回って冷遇されます。つまり読む前の期待度が低いわけです。
で、あまり期待せずに「ふーん」という感じで通学途中に読んでみたら……。大当たりでした。この人ヤバいです。ホンモノです。どのくらいヤバいかというと、ベクトルは違いますが「空の境界」での那須きのこくらいのインパクトがあります*1。
前半をちょっと読んでみて、谷甲州ファンとしては「『エリコ』のような世界で航空宇宙軍史の外伝をやっている感じかな」と思いましたが謝罪します。そういう他の作家さんの作品との類似点をもとに語れるような作品ではありません。
韻と特定のモチーフにこだわった作者独特の言語感覚の上にマルドゥック・シティという舞台をきっちり据え、ある種フリークス(人外というかバケモノ)めいたキャラクターたちと、それぞれの「焦げ付いた」心情や人生模様を安っぽくもなく、あざとくもなくしっかりと描写しています。原稿用紙にして千八百枚、紙面にして千ページ近くの分量を緊張感を維持したままダレずに一気に読ませるページターナーぶりもなかなかのもの。かてて加えて、読後に「また読んでみよう」と思わせてくれる魅力があります*2。寺田克也さんのイラストも世界観によく合っていて良。
というわけでまた一人面白い作家を見つけたという気分になっています。冲方さんの他の本も読んでみようかな……。
ちなみに冲方さんのサイトはこちらですが、テキストサイトとしても面白いと思います。まー作家のサイトだから当たり前でしょうが。昔の文章を集めた場所にある靖國神社についての考察は、結論はともかく途中の思索が非常に興味深いものでした。なるほど、こういう視点があるのねという感じで。