アン・ライス「ヴァンパイア・レスタト」

 いまいちしっくりこなかった前作とは違い、登場人物が理解可能だったので非常に楽しめました。こっちで主役を張っているのは「狼殺し」レスタト、レスタトの母ガブリエル、そしてヴェネツィアの画家マリウスと、「神」や「悪魔」の存在を信じない人間中心的な近代的自我の持ち主ばかりなので素直に感情移入できて良。
 ただ、レスタトやマリウスが愛しているのはあくまでも人間の都市や文明で、ガブリエルが愛しているのは人間の手垢にまみれていない辺境の自然の美であるという性格づけがされていますが、前者が近代における俳優や芸術家、歴史家のメンタリティの持ち主とすると、後者は近代における冒険家や自然科学者のメンタリティの持ち主なのかなと思ってみたり*1
 とりあえずガブリエルを主人公にしたものを作者が書いてくれないかな。ヴァンパイアの目から見た辺境の自然はどういうものなのかを読んでみたい。
 あと、本作ではアルマンのバックグラウンドも明らかになっていますが、なんというかロシアの暗い大地とロシア正教の信仰に縛り付けられた中世スラヴ人がヴァンパイアになるとこうなるのか、という印象を受けました。偏見が混じっているかもしれないけど。
 それと、マリウスが語る<母>と<父>の物語(というかマリウスのエジプトでの経験)には、なぜか中島敦の小説を彷彿とさせる雰囲気が漂っているのが面白いです。アン・ライスなのに。

*1:ガブリエルがこっそりナショナル・ジオグラフィック誌に出たり寄稿していても違和感ないなぁ……。