ジェイムズ・P・ホーガン 「内なる宇宙」(上・下)

 「巨人」シリーズの最新作。ホーガンだけあってアイデアとストーリーは読ませるのですが、「巨人」シリーズはお世辞にも訳があまりよいとはいえず、日本語の文のもっさり具合で読む楽しさが大分削がれてしまっているような気がします(それでもグイグイ読ませるのはさすが、とも言えますが)。

 昔SFマガジン大森望さんがSF翻訳指南というような趣旨の連載をしていましたが、その時に大森さんが書いていた「翻訳作品の面白さは、翻訳の質によってオリジナルの70%から120%の間のどこかに落ち着く」という言葉(うろ覚えなのであまり正確ではないですが)のよい例証でしょう。「巨人」シリーズを訳している人はプロの翻訳家のようですが、ひょっとしてどのジャンルのどの作品でもこういう文体で通し、キャラクターにはこういう口調でしゃべらせているのかしらんなどといらぬ想像をしてしまい、あまり精神衛生上よろしくありません。反対に、SF翻訳では120%かそれ以上のパフォーマンスを叩き出しているんじゃないかと思わせるネ申もいます。ディヴィッド・ブリンやダン・シモンズの作品を訳している酒井昭伸さんですが、この人が訳した本はいずれもハズレがなく、こなれていてかつ勢いのある文章や語り口でぐいぐい読ませてくれます。フィクションにおいてはあらまほしき翻訳者の姿ではないかと思う次第。